5月-2.愛媛の名水「うちぬき」が育てる「絹かわなす」

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正倉院文書にも書かれているナス

 日々の食卓でおなじみの食材「ナス」は、インドが原産地と推定されています。高温性のため、とくにアジアの熱帯から亜熱帯地域では、重要な食材としての地位が保たれてきました。日本への渡来は古く、奈良時代にはすでに栽培されていた記録があります。
 歴史ある野菜だけあって、ナスの在来種は日本全国に存在します。京都の加茂なす、大阪の泉州水なす、山形の民田なす、新潟の巾着なす、埼玉の青なす、宮城の長なす、熊本の赤なす…と、挙げていくときりがありません。淡白な味わいで幅広い料理に使えるナスは、日本人の食生活と好みにマッチしたのでしょう。各地の風土や食文化に添いながら、ナスは1000年以上の時をかけて日本国内でも多様化してきました。

水の都で細々と受け継がれてきたナス

 四国の愛媛県西条市は、全国一のおいしい水(平成7、8年)を擁する町で、市内のあちこちには「うちぬき水」と呼ばれるおいしい水の自噴井(じふんせい)が約2000もあります。この「うちぬき水」こそ、西条の人々の暮らしにとって欠かせない存在で、生活用水はもちろん、農業、工業もこの良質な地下水でまかなわれているとか。
 さて、この日本一おいしい水の町にも、在来のナスが存在しているのをご存知ですか。ナスという野菜は、その9割が水分といわれています。町の誇りであるおいしい水が育てる野菜。それが「絹かわなす」です。果実の長さは約15cm、幅約8cm、重さはなんと250gほどもある大きなナスです。
その名のとおり、絹のようになめらかな果皮は、歯を軽く当てるだけでパリッと小気味よくはじけます。みずみずしい果肉は、生でもおいしくいただけるほど。ひと口かじると果物の青リンゴや梨にも例えられる香りが華やかに放たれます。加熱すれば、とろけるような舌触りで、これまで慣れ親しんできた一般的なナスという野菜の固定観念が打ち破られることでしょう。
 多様化したナスのなかでも、とくに個性が際立つ「絹かわなす」は、これまで西条の限られた農家で自家用としてのみつくり続けられてきました。広まらなかった理由は、育苗に手間がかかるためだそう。それでもこのナスが「とにかくおいしいから」というシンプルな理由だけで、毎年タネを採り、細々と、しかし絶やすことなくつくり続けてきた人々の熱意は、近年になってにわかに注目されることになりました。

地域の宝を守るために

 地域の特産物が見なおされることが多い昨今。西条でも地域の宝「絹かわなす」を地域の特産物として広く知らしめたい、そのためにも収穫量をふやし、販路を広げるという企画が持ち上がりました。同時に、もしもタネがほかに渡って、別の地域で栽培されて売り出されたりしたら困るという新たな問題に直面したのです。
 ところが、生産者たちは、「絹かわなすは、この地域でしかつくれない。なぜならほかの土地には『うちぬき水』がないからさ」と胸を張り、むしろ自分たちの「絹かわなす」に対する自信と誇りを見せつけました。「絹かわなす」は、名水あっての名産品。いずれも地域の宝と呼ぶにふさわしい存在なのです。
 続いて西条市の農協は、苦労の末に「絹かわなす」を商標登録することで、地域の特産物を保護する方法を選びました。現在では、西条市の指定農家から出荷される正真正銘の「絹かわなす」以外に、この名前は使えません。併せて生産者は、ブランドを守るための品質保持などの責任を背負うことになりますが、それは、末永く「絹かわなす」を伝え、残していくためには必須の選択だったといえるでしょう。
 さらに今後は、難しいといわれる栽培技術の伝承や、試験場に依頼してより優れたタネを残すための選抜育種にも取り組んでいくそうです。
 市場流通量はまだまだ少ない「絹かわなす」ですが、四国の数軒の農家が細く長く伝えてきた伝統野菜の味は、地域への愛情と誇りの賜物です。機会あればぜひ一度、うちぬき水が育てる「絹かわなす」を味わってみてください。

◎絹かわなす(R)のお求めは…(JA西条ホームページ
◎取材協力/JA西条

コラム|ウチダ トモコ
園芸ライター、グリーンアドバイザー、江戸東京野菜コンシェルジュ。
園芸雑誌、ライフスタイル誌などの編集、ライターを経て、現在は主にウェブで提案および取材執筆活動中。

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