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6月-4.植木市に行ってみよう

富士山信仰がベースの浅草の植木市

 台東区浅草の「お富士さんの植木市」は、東京でもっとも歴史があるといわれる植木市です。その起こりは、界隈にある浅草富士浅間神社が、富士山の山開きに合わせて開催する例大祭の縁日(※)の際に、さまざまな物売りに交じって植木商たちが樹木を並べて売ったことに因るそう。
(※現在の暦に合わせて、縁日は5月と6月の2回開催に変わっています。)
 江戸時代の庶民は富士山信仰が篤かったのですが、なかなか本物の富士山へは詣でられないので、身近な場所の山の神、木花咲耶比売命(このはな(の)さくやひめのみこと)を祀る浅間神社をたびたび参詣しました。人気の神様のお膝元であるお富士さんの縁日は、大変な賑わいをみせました。最盛期には近県の植木業者らも出店し、会場の柳通り周辺は、背丈ほどもある植木に埋め尽くされていたと街の方が教えてくださいました。
 そもそも初夏から梅雨入りごろの時期は、昔から、多くの樹木の植えつけ適期といわれており、この時期に開催される「お富士さんの植木市」で買った植木はよく根づくと評判となって、賑わいはいっそう広がっていきました。今も昔も、庶民の口コミの強さを思い知らされるエピソードです。

街の人々の心を潤していた植木

 江戸末期から明治、大正時代の東京では毎日のように縁日が立ち、その縁日に植木を並べる店はつきものだったそうです。それほど街の人々の暮らしに、植物は密接だったのでしょう。今でも都会の路地に鉢物を並べているお宅は少なくなく、植木市を楽しみにする心は、都心部の人々に受け継がれているように思えてなりません。
 江戸の植木の産地といえば、現在の豊島区駒込や巣鴨近辺の染井村と呼ばれた地域でした。おなじみのサクラ‘ソメイヨシノ'(染井吉野)が生まれた地域として知られています。
今や駒込や巣鴨は落ち着いた都会の街並で、植木畑は見る影もありませんが、かつての東京郊外だった地域は、市中に供給する植木や野菜を生産する農村でした。染井村で栽培された植木も縁日に並んでは、江戸市中の人々の暮らしに潤いを与えていたことでしょう。

今も昔も庶民の楽しみ

 前出の浅草の街でもっとも著名な浅草寺は、毎年7月9、10日がご縁日。この縁日は1日で4万6千日分お詣りをした功徳があると今に伝わり、「四万六千日」の名前で呼ばれています。
 この縁日に併せて行なわれるのが「ほおずき市」です。ほおずきは、古くは薬草として扱われ、夏のこの時期に欠かせない植物とされてきました。浅草寺境内はあふれんばかりの参詣者で賑わうほか、ほおずき売りの店が並びます。この日、東京のあちこちで、ほおずきの鉢をぶら下げて帰る人を見かけることができ、夏が目前だということを知らされます。このように信仰心と植物の関わり合いは、古くから現代に至るまで、庶民になくてはならないものなのでしょう。

 さて、今回は東京のケースを紹介しましたが、各地の植木や園芸植物の産地でも植木市が開催されています。雨の予報と雲行きとにらめっこしながらそんな場所に出向いてみるのも、この時期の楽しみのひとつではないでしょうか。

コラム|ウチダ トモコ
園芸ライター、グリーンアドバイザー、江戸東京野菜コンシェルジュ。
園芸雑誌、ライフスタイル誌などの編集、ライターを経て、現在は主にウェブで提案および取材執筆活動中。

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