6月-4.来たる夏を思えばトウガラシ

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薬用、そして人気の薬味

 汗をかきながら食べるピリッと辛い料理は、暑さで落ち気味になる食欲を回復してくれて、夏バテ予防に欠かせません。コショウ、カラシ、ワサビなど、辛さや風味を供する香辛野菜はいくつかありますが、夏の主役はやはりトウガラシ。菜園ではトマトやナス、キュウリなどと並びながらも、初夏から晩秋までと長期間にわたって栽培され、秋になれば色づく果実が菜園の彩りにも利用されています。
 トウガラシの来歴は、はっきりしたことがわかっていませんが、すでに16世紀には日本へ導入されていたそう。当初から香辛料用、薬用として広く使われていたと考えられ、貝原益軒(1630~1714年)が著した薬草の専門書『大和本草』(1709)には、頭痛、腹痛などに効果があると記されています。
 続いて、今でこそ家庭にも常備されている七味唐辛子。その誕生は江戸時代初期の徳川体制も盤石になった三代将軍家光の時代です。現在の東日本橋にあたる薬研堀(やげんぼり)の商人が考案、発売したところ評判を得て、食事に香りと風味を添える薬味として、みるみる民間へ広まっていったのです。
 こうして各地で栽培されはじめたトウガラシですが、残念なことに現代では、当時あった品種の多くは失われてしまったそうです。しかし、その一部は近年、伝統野菜として注目され、復活を遂げています。たとえば、前出の薬研堀の商店に卸されていたトウガラシ「八つ房」は、高遠藩内藤家の下屋敷の菜園、つまり現在の東京、新宿御苑で栽培されていました。この栽培地から「内藤とうがらし」と名付けられたこの品種は、近年注目されている江戸東京野菜にも数えられ、地域を挙げた取り組みがなされています。同じく高遠藩のお国許、現在の長野県伊那市高遠町でも同様に、高遠版の「内藤とうがらし」プロジェクトが熱心に進められており、過疎化が進む中山間地の活性化に一役買っています。

辛いピーマンはあるの?

 「交雑してピーマンが辛くなってしまうから、近くに辛いトウガラシを植えてはいけない」。そんな話を聞いたことがあります。しかしこれは間違い。ピーマンと日本で栽培される多くのトウガラシは、学名にすればどちらもカプシクム・アニューム(Capsicum annuum)で同じ種類になりますが、遺伝子的に辛くなる能力を完全に失っているのがピーマンです。だからトウガラシをいくら近くに植えようとも、ピーマンが辛くなることはありません。
 ところが同じくカプシクム・アニュームの仲間であるシシトウは、ご存知の通り、まれにとても辛い果実に当たり驚くことがあります。シシトウはピーマンとは違い、トウガラシの辛み成分を発現する能力を潜在的には保持しているため、生育中に高温、水不足、肥料不足といった、何かしらの環境ストレスに当たると、辛み成分が発現するのです。しかし、辛くないと思って食べたとたんに、激辛に当たったときの驚きは、私たちにとってもやはり少々ストレスというもの。こうしたなかで、京野菜の一つであり、シシトウ同様に辛み成分を発現する能力を潜在的には保持しているトウガラシ品種の「万願寺とうがらし」では、この品種を元に交配技術が駆使されて、ピーマンのように辛み成分が遺伝的に全く発現されない品種「京都万願寺2号」が作出されました。さらに、最近では栽培法や環境で辛さがぶれることがなく、トウガラシの辛味を風味として楽しめる品種の開発についても、研究が進められています。

監修:松島憲一(信州大学大学院農学研究科 准教授)

コラム|ウチダ トモコ
園芸ライター、グリーンアドバイザー、江戸東京野菜コンシェルジュ。
園芸雑誌、ライフスタイル誌などの編集、ライターを経て、現在は主にウェブで提案および取材執筆活動中。

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