7月-3.トマトで見る夏の夢

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トマトという植物のたくましさ

 トマトが生えていた場所は、川沿いのフェンスの足もとで、ほんの少しの土の隙間。それでも背丈ほどに育ち、青い果実をしっかりつけていました。おそらく鳥などが運んで落とした果実のタネが芽生えたのでしょう。植物はいつも、こうして偶然が重なったなかで、力強く生きていくのです。実は「野良トマト」は、探すとけっこう見つかります。私も今まで、幹線道路や塀沿いなど、様々な場所で見るたびに、食用作物となって150年ばかりしか経っていない、トマトのたくましさに思いをめぐらせるのでした。
 さて、みなさんの家庭菜園のトマトも収穫が始まっていることと思いますが、偶然の産物「野良トマト」があるのだから、今実っているトマトからタネをとっても、簡単に芽吹いてくる気がしませんか?
 答えはYESです。しかし、今のトマトの多くはF1品種といって、形質の違う親同士を掛け合わせた雑種であり、遺伝の法則からその次世代は、親と同じ形質を継げません。よって、今手元にあるトマトからタネをとってまき、たとえ芽吹いたとしても、親トマトと同じような形で、同じような味わいをもつ果実がつかないことがほとんどです。ただし、 必ずしも親に劣るトマトしかできないわけでもありません。どんな形状、どんな味わいのトマトになるか栽培してみるのも園芸の楽しみではないでしょうか。

 また、今のトマトすべてがF1品種とは限らず、なかには固定種とよばれる系統も流通しています。固定種は、代々同じ形質を受け継いでいる品種のことで、タネをとってまいた次世代も、多少のブレがあるとはいえ、基本的に親と同じものができます。‘世界一’や‘ポンテローザ’などが、古くから知られる固定種の品種で、種苗店でタネを見かけたことがある人も少なくないでしょう。こうしたトマトを育てているなら、ぜひタネをとってみましょう。果実に触れて、自然とポロリと落ちるまで完熟させたのちに、ゼリーに包まれたトマトのタネを取り出します。茶漉しなどに入れてこすりながら水洗いし、ゼリー部分を取り除いたら、キッチンペーパーの上に並べて、風通しのよい日陰で乾かします。乾いたタネが飛ばないように、目の細かいザルなどをかぶせておくとよいでしょう。乾いたタネは7月ならすぐにまくか、ビニール袋などに入れて、冷蔵庫の野菜室で保管し、翌春のタネまき適期になってからまきます。

家伝トマト

 代々同じ形質を受け継いでいる固定種のうち、まるで家伝のように、ひとつの家族や小さなコミュニティーのなかで固定化されてきたトマトがあるのをご存知ですか? 最近耳にするようになった「エアルームトマト」と呼ばれているものがそれです。英語の「heirloom」は、家宝や先祖伝来の家財などを意味しますが、となれば、ちょっと秘密めいた、不思議な魅力が感じられます。エアルーム品種はトマト以外の野菜にも存在し、いずれも「移民してきた先祖が持ち込んだ」など、物語とともに一族に伝わってきた品種なのです。エアルームの野菜にはF1品種のように均一性がない代わりに、持ち込まれた経緯や選抜のクセも相まって、品種の形質は非常に多様です。

 このように、広い世界には多様なトマトの品種が存在していて、まだまだ可能性をたくさん秘めた野菜であることに違いありません。生育が均一で栽培しやすいF1品種の長所を知ったうえで、こうした多様な固定種や、エアルームトマトの世界をひとかじりしてみませんか。まずは手元のトマトのタネ取りから始めてみれば、それは、自分だけの、家伝トマトの最初の一歩になるかもしれません。

コラム|ウチダ トモコ
園芸ライター、グリーンアドバイザー、江戸東京野菜コンシェルジュ。
園芸雑誌、ライフスタイル誌などの編集、ライターを経て、現在は主にウェブで提案および取材執筆活動中。

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