8月-4.食卓の思い出

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思い出の野菜の麺

 子どものころの、ある日の昼下がり。台所で祖母がお酢の香りを漂わせつつ、つるつるとそうめんのようなものを食べていました。なんだろうと尋ねてみると、祖母が笑いながらゴソゴソと取り出したのは、小さな薄黄色のウリ。「そうめんカボチャよ」と教えてくれました。祖母がいつのまにか、家庭菜園で育てていたのでした。
 キンシウリ(金糸瓜)、イトウリ(糸瓜)とも呼ばれるこの野菜は、とても不思議な野菜。そうめんカボチャの名前どおり、茹でると身が、麺のように細くほぐれていくのです。

 後日、大人になってから知ったのは、そうめんカボチャはウリ科の中でもカボチャの仲間、それもペポ種という系統のひとつで、今では夏野菜としてポピュラーになったズッキーニと同じ系統だということ。それにしても、茹でると勝手に身がひも状にほぐれていくという性質は、ほかの野菜ではなかなか見られず、そうめんカボチャの唯一無二っぷりは、野菜界でもピカイチ。酢の物のほか、麺のように食べたり、炒めものにしたり。甘く煮てジャムのようにして、パイ生地で包んだりと、さまざまな楽しみ方ができる野菜です。

 ちなみにアメリカ原産のそうめんカボチャは石川県能登地方の名産で、能登伝統野菜として登録されています。当時、祖母がどうやってそうめんカボチャのタネを入手したのか、祖母が亡くなって久しい今では、残念ながら、知る由もありません。しかし、蒸し暑さが訪れるころになると、祖母がおいしそうに食べていたことが思い出されて、そうめんカボチャを求めて、私は青果店の棚をくまなく探してしまうのです。

再挑戦で魅力の虜に

 そうめんカボチャにはじまり、祖母は珍しいもの好きだったのか、ツルムラサキやモロヘイヤなど、今でこそ家庭菜園でもおなじみとなった野菜を、ずいぶん前から育てて楽しんでいました。それらはわが家の夏の食卓によく並び、変わった味わいだなぁと子ども心に思うことがしばしばありました。

 もし祖母が今も存命だったら、ぜひ勧めたい野菜があります。それはオカワカメ。関西地方では30年以上前から「雲南百薬(うんなんひゃくやく)」の名前で栽培されていたそうですが、私がオカワカメをはじめて口にしたのは、10年ほど前、とある企業の社員食堂でした。さっぱりとした味のお浸しとして供されたそれは、ちょっとクセがあり、あまり好みではなかったのが正直な感想です。

 それでも気持ちがなびいたのは、関西地方の友人が栽培していると聞いたことがきっかけでしたが、興味を覚えたのは野菜としてではなく、花の芳香のほう。
 熱帯地方が原産のオカワカメは、夏の間はぐんぐんとつるを伸ばして育ち、秋になるとクリーム色の小花がフワフワの房状となって咲きます。友人によると、オカワカメの花は甘くよい香りを放ち、ミツバチもやってくるとのこと。よい香りと聞けば、ぜひそれを試してみたいもの。開花のお知らせをいただいた私は、遠路、友人宅へ押しかけていきました。
 軒先へ伸びたつるから枝垂れ咲くオカワカメの花は、多肉質な葉の様子に対して意外に思えるほどエレガント。ベランダいっぱいに広がる甘い芳香に酔いしれ、苦手だった葉のことも忘れて、これはぜひ育ててみたいと強く思ったのです。

 翌年からはわが家で、花の芳香を目的としたオカワカメ栽培がはじまりました。ところがそんな矢先、別の友人から「名前のとおり、ワカメ代わりに味噌汁にするのが一番おいしいよ」と教わったのです。
 そこでさっそく、再度食用に挑戦。味噌汁の具にしたオカワカメの葉は、味噌の風味で青臭さが消されて、なかなか歯ごたえも楽しい食材として再認識することができました。
 ごはんの支度がつい億劫になりがちな、夏の暑い台所。でも、庭で摘んだオカワカメの食感を楽しみたく、油揚げと合わせたり、冷汁のようにしたり。ようやくオカワカメを、丸ごと楽しめるようになった気分です。

 青果店や直売所で、そうめんカボチャやオカワカメを見つけたら、ぜひ手にとってみてください。そしてもしもお気に召されたら、来年の夏は菜園やベランダのプランターで、これらの野菜栽培にトライしてみてはいかがでしょうか。私も自分で栽培したそうめんカボチャで、祖母の思い出の味、酢の物をこしらえたいなと思っています。

コラム|ウチダ トモコ
園芸ライター、グリーンアドバイザー、江戸東京野菜コンシェルジュ。
園芸雑誌、ライフスタイル誌などの編集、ライターを経て、現在は主にウェブで提案および取材執筆活動中。

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