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アロマセラピーによる女性特有の疾患改善

監修 塩田 清二

芳香療法(アロマセラピー)が積極的に取り入れられている臨床分野の一つが産婦人科です。女性特有の疾患には月経困難症や月経前症候群、更年期障害などがありますが、これらは女性ホルモンのバランスの乱れが原因です。こうした疾患の症状の緩和に、昔から民間療法としてアロマセラピーが用いられてきました。
女性ホルモンにはエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)の2種類があります。そのホルモン分泌の司令塔は間脳の一番下にある視床下部と、それに連なる脳下垂体です。視床下部から性腺刺激ホルモン放出ホルモンが分泌されると、脳下垂体から卵胞刺激ホルモンと黄体形成ホルモンが分泌され、これが卵巣に届くとエストロゲン、続いてプロゲステロンが分泌されます。

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月経困難症や月経前症候群、更年期障害などは、この経路のどこかに問題が生じているために発生すると考えられます。
じつは、女性ホルモンが分泌される経路は、においの情報が神経細胞や自律神経を介して末梢臓器にさまざまな働きをするときの経路とよく似ています。精油のなかにはクラリセージのように女性ホルモンと同様の生理作用をもつものがありますが、においの情報が脳に届くことで女性ホルモンの分泌量やホルモンバランスを整えると考えられます。

実験方法

実験は谷垣礼子医師(現東京医科大学産婦人科)らによって、東京都済生会中央病院に開設されたアロマセラピー外来で2年間にわたって行われました。月経困難症や月経前症候群、更年期障害などの患者に、それぞれの疾患に効果があるとされている精油を用いたアロマセラピーを施しました。そして、外来診療前とアロマセラピーを1か月間継続した後を比較しました。
アロマセラピーに用いた精油は、それぞれの疾患の症状改善に効果があると経験的に知られてきたものです。

表1 代表的な女性特有の疾患とアロマセラピーに用いた精油

疾患 症状 用いた主な精油
月経困難症 日常生活に支障をきたすほどの強い生理痛をいう。痛みの原因はプロスタグランジンの過剰生産による血管収縮や子宮筋の虚血と考えられている。 カモミール、クラリセージ、ローズ、真正ラベンダーなど
月経前症候群 月経の3~10日前から腹痛や腰痛、頭痛、顔や足のむくみ、乳房痛、吐き気などのほか、イライラや憂鬱などの情緒不安定な症状がでる。月経が始まると症状は自然に軽減し、なくなる。 真正ラベンダー、ゼラニウム、ローマンカモミール、スイートオレンジ、クラリセージなど
更年期障害 40代後半から卵巣機能が低下し、エストロゲンの分泌量が急減する。このホルモンの変化に心身がついていけず、自律神経失調症のような症状-のぼせ、めまい、動悸、発汗、頭痛、肩こり、イライラなどが現れる。 クラリセージ、ニアウリ、サイプレス、真正ラベンダー、スイートオレンジなど

それらの精油を用いた足浴と症例別のマッサージ30分、セルフマッサージを1か月間続けました。

実験結果

外来診療前とアロマセラピーを1か月間継続した後を比較すると、すべての疾患で症状の改善が見られました。

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月経困難症では、約75%の患者は中等度に回復しましたが、25%には回復が認められませんでした。月経前緊張症では、33%はほぼ回復し、残りの67%も中等度に回復しました。更年期障害では20%はほぼ回復、60%は中等度に回復しましたが、20%には回復が認められませんでした。クッパーマン指数※で比較すると、更年期障害の患者では、アロマセラピー前の指数が29、アロマセラピー後は21と、中等度から軽症の一歩手前まで数値が下がりました。

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月経困難症、月経前緊張症の患者では、アロマセラピー前には軽症の更年期障害と判断される数値の患者がいましたが、アロマセラピー後は正常な数値にまで下がりました。

※クッパーマン指数は、更年期の不定愁訴—はっきりした原因が捉えられないが起こる、頭痛、めまい、肩こり、腰痛、イライラといった症状—を数値化する目的でつくられた。11の症状の程度を4段階で自己評価し、それに評価度の数値を掛け、合計したもの。クッパーマン指数が16〜20なら軽症の更年期障害、21〜34なら中等度、35以上なら重症といえる。

芳香浴には品質の確かな精油を

女性ホルモンのバランスの乱れが原因の疾患、特に更年期症状や更年期障害の根本的治療法として、最近はホルモン補充療法(HRT)が普及してきています。これは閉経前後に体内で不足してきた女性ホルモン(主にエストロゲン)を補充する療法で、多くの長期データによって安全性と有効性が示され、日本でも健康保険が適用されています。
更年期の症状や更年期障害の治療法として優れたホルモン補充療法ですが、ホルモン補充療法とアロマセラピーを比較したときに、アロマセラピーのほうが劣っているかといえば、そうとはいえません。表2にホルモン療法とアロマセラピーの更年期障害に対する効果の比較を示します。優れているほうを緑色にしてあります。こうしてみると、アロマセラピーはホルモン療法より更年期障害に効くこともあり、なにより副作用の心配がほとんどない点が優れています。

表2 ホルモン療法とアロマセラピーの更年期障害に対する効果の比較

ホルモン補充療法 アロマセラピー
副作用 出る可能性がある ほとんどない
効果が出る早さ 数時間~数週間 吸入後すぐの場合もある
効果 高い 中~高い
使用法の手軽さ 薬の服用、貼付、塗布 吸入、マッサージ
保険適用 あり なし

データ:谷垣礼子先生(東京医科大学)提供(2002)

この記事を読んで、更年期障害などの治療にアロマセラピーを用いてみたいと興味をもたれた方は、まずはアロマセラピー学会認定の医師、看護師に相談してみてください。自宅で行う場合も、自己流では行わず、症状に合った精油、吸入や足浴、アロマバスなどの用法を処方してもらい、それに従って行うようにしましょう。

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参考文献
日本アロマセラピー学会編(2010)『アロマセラピー標準テキスト 臨床編』丸善出版
塩田清二監修(2012)『〈香り〉はなぜ脳に効くのか アロマセラピーと先端医療』NHK出版
塩田清二(2017)『ガーデンセラピー講座1 アロマセラピー学』悠光堂

監修 塩田 清二(しおだ せいじ)

星薬科大学先端生命科学研究所 特任教授。塩田ライフサイエンス株式会社 代表取締役。
1974年 早稲田大学 教育学部生物学研究科卒業後、新潟大学大学院 理学研究科修士課程修了、昭和大学医学部第一解剖学講座にて医学博士号取得。米国チューレン大学 客員教授、昭和大学医学部 第一解剖学講座主任教授などを経て、現在に至る。

日本ガーデンセラピー協会 会長、日本アロマセラピー学会 前理事長、日本糖尿病・肥満動物学会 名誉会員、日本統合医療学会 顧問、美しく老いる会 理事長、日本組織細胞化学会 評議員などをつとめる。専門は神経ペプチドを中心とした神経科学。

アロマセラピーによる女性特有の疾患改善についてご紹介しています。
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