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ハーブの効用

監修 岩崎 寛

植物のもつストレスの緩和効果は、森林や都市公園、オフィス空間などにおいて医学的、科学的に検証がなされ、根拠も蓄積されてきており、その効果を取り入れることが期待されています。しかし、生活の中で長時間過ごす場所である住宅において植物とかかわることによる効果については、あまり報告がありません。そこで、戸建て住宅居住者の植物に対する意識の把握と、植物にかかわることによる心理的効果の検証を、ハーブを用いて行いました。
ハーブの特徴といえば香りであり、それぞれの香り(精油)の効能についてはよく研究されています。ここでは香りの効能ではなく、ハーブの存在そのものが人々の暮らしにもたらす影響に注目しました。

実験方法

東京都の都心を少し離れた新興住宅地において、園芸プログラムを開催し、その参加者に質問紙調査と感情プロフィールテスト(POMS)を実施しました。感情プロフィールテストとは、「緊張-不安」「抑うつ-落ち込み」「怒り-敵意」「活気」「疲労」「混乱」の6つの尺度から気分や感情を測定する方法です。質問事項に5段階で回答し、尺度ごとの合計点(T得点)で判定します。
園芸プログラムは「ハーブと草花の寄せ植え」と「ハーブを食べよう」の2つのテーマで行いました。「ハーブと草花の寄せ植え」ではラベンダーやローズマリーなどのハーブとパンジーやゴールドクレストなどの園芸植物をプランターに寄せ植えにしてもらいました。また、「ハーブを食べよう」では、前のプログラムで寄せ植えにしたハーブを用いてオイルを作り、ハーブソルトやハーブバターの試食を行いました。
質問紙調査では、日常生活の中での植物との関わりや自宅の庭の状況などを聞きました。感情プロフィールテストでは、寄せ植えづくりやハーブの試食の前後の感情の変化を調べました。なお、園芸プログラムへの参加者は、20代から60代までの男女で、戸建て住宅購入層と考えられる30代が最も多くなりました。

質問紙調査の結果

質問紙調査から、自宅で植物を育てている人は92%と高い割合でした。またそれらの人がどんな植物を育てているかを聞いたところ、草花が最も多く85%、次いで観葉植物68%、ハーブ60%、果樹40%、野菜36%という順でした。
次に、それぞれの植物を育てている理由を聞いたところ、草花や観葉植物は「景観がよい」「落ち着く」という理由が、果樹や野菜は「収穫できる」「料理に使う」という理由が飛び抜けて多く、その他の理由はあまり見られませんでした。ところが、ハーブは、「景観がよい」「落ち着く」 「香りが好き」「管理しやすい」「収穫できる」「料理に使える」など理由が偏らず、幅広い理由で取り入れられていることがわかりました。

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このように多様な目的に対応できるという点も、多くの人にハーブをオススメしたい理由の一つです。

感情プロフィールテストの結果

園芸プログラム「ハーブと草花の寄せ植え」を行った前後の感情の変化を示します。

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プログラム前に比べ、プログラム後で「緊張-不安」「抑うつ-落ち込み」「怒り-敵意」「疲労」「混乱」といった負の感情が低下し、正の感情である「活気」が上昇しました。6つの項目すべてにおいて有意な差が見られたことから、この園芸プログラムは心理的によい効果が得られたと考えられます。「ハーブを食べよう」のプログラムでは、「抑うつ-落ち込み」は有意な差が見られませんでしたが、ほかの5つの項目は同様の結果でしたから、やはり一定の効果が得られたと考えられます。このように、「寄せ植え」のような一般的な園芸プログラムだけでなく、「ハーブを食べる」といったような五感で楽しむプログラムでも十分に心理的効果があることがわかりました。
ただ、ハーブやアロマというと、女性に好まれるプログラムのように思われます。そこで、性別による違いを見るために、「ハーブを食べよう」のプログラムの結果を男女で分けて分析しました。

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その結果、女性のほうはほぼ全ての項目においてプログラムの前後で有意な差があり、全体の結果と同様でした。ところが、男性のほうは、正の感情の「活気」と負の感情である「混乱」の2項目のみ有意な差が見られ、全体の結果とは異なっていました。やはり、ハーブを扱う園芸プログラムには性差があるようです。
また、「ハーブと草花の寄せ植え」についても男女で分けて分析すると、女性は全項目ともプログラムの前後で有意な差がありましたが、男性は正の感情の「活気」と負の感情である「緊張-不安」、「疲労」にのみ有意な差が見られました。このことから、男性は同じハーブを使ったプログラムでも「食べる」プログラムと「植える」プログラムでは改善する心理的項目が異なることがわかりました。よって、男性に対してハーブのプログラムを提供する場合は、改善したい心理的項目によってその内容を検討することが効果的であると言えます。

ハーブの効果に注目しよう!

男女による差はあるものの、家庭で植物を育て、さまざまな園芸作業をすることは、不安や緊張、怒りを和らげたり、落ち込んだ気分を盛り上げたり、疲れを癒したりする効果があるようです。戸建て住宅にすむ人のほとんどが植物を栽培しているのは、家を美しく飾るためだけでなく、そうした効果があることを無意識に体感できているためかもしれません。
栽培している植物は草花が多いようですが、私がおすすめするのはハーブです。ハーブは草花に比べて、植えてからの楽しみが広がります。香りを楽しむのはもちろん、収穫して、クラフトの材料として使ったり、ハーブティーや料理に利用したりすることができ、それぞれで癒されます。食材やクラフトの材料としてのハーブは、最近ではスーパーやハーブ専門店などで簡単に購入できますが、自分で育てたものを食べたり、使って物づくりをすることで、喜びは大きくなります。また、ハーブには消臭作用や殺菌作用、消化を助ける作用などがあり、食べることによって健康に寄与する効果も期待できます。
ハーブの多くはもともと西洋の雑草で、ほうっておいても元気に育つ種類が多く、園芸初心者でも栽培に失敗しにくいものです。ぜひ生活の中にハーブを取り入れてみてください。

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参考文献
賈楠,小澤直子,富永斉史,上井一哉,岩崎寛(2014)新興住宅地における戸建て住宅居住者の植物に対する意識〜多摩ニュータウンにおける事例,人間・植物関係学会雑誌14別冊:14-15
小澤直子,岩崎寛(2013)芳香植物の香りに対する年代別の印象評価および嗜好性に関する研究,人間・植物関係学会雑誌12(2):7−12
小澤直子,岩崎寛(2015)食材としての芳香性植物の認知度および日常飲食利用の有無による印象の違い,人間・植物関係学会雑誌15(1):1−7
積水ハウス株式会社総合住宅研究所(2014)『生活リテラシーbook+plus001lifewithherbsみどり香る暮らし』

監修 岩崎 寛(いわさき ゆたか)

京都市生まれ。京都府立大学農学部を卒業後、岡山大学大学院において博士号取得。
姫路工業大学、兵庫県立淡路景観園芸学校教員を経て2005年より千葉大学園芸学部に勤務。
現在、園芸学研究科環境健康学領域長。
2012年より千葉大学看護学研究科災害看護学GL養成PGの教員も兼務。専門は緑地福祉学、環境健康学。

園芸療法や公園セラピーなど「緑の療法的効果」に関する研究と、それらを実践する場である病院などの「医療福祉機関における緑のあり方」など、人と植物とのより良い関係について、緑地や植物からの視点だけでなく、医学、薬学、看護学など学際的な視点から研究を進めている。専門認定登録園芸療法士(日本園芸療法学会)、気候療法士(ドイツ)などの資格を持ち、日本ガーデンセラピー協会顧問、日本園芸療法学会理事、日本緑化工学会理事などをつとめている。

ハーブの効用についてご紹介しています。
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