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身近な公園の緑の効用 ~クスノキの揮発成分のストレス緩和作用

監修 岩崎 寛

皆さんご存知だと思いますが、「森林浴」というのは、森林に行って散策したり、休息したりすることによりリフレッシュされ、心身の健康を維持する方法のことです。その効果は医学的、科学的に検証され、その根拠も蓄積されてきています。しかし、都会に暮らしていると日々の生活の中で気軽に森林に行くことも難しいですし、たまの休日にも郊外の森林に足を運ぶのは面倒だし、休日は道も渋滞していてかえってストレスが溜まりそうです。
そこで、注目したいのが身近な公園などの緑地です。もし公園でも森林浴と同じような効果が得られれば、日々の生活にも気軽に取り入れやすくなります。
森林浴のリフレッシュ効果をもたらす要因のひとつとして「フィトンチッド」が拳げられます。フィトンチッドとは、植物がもつ揮発成分のことで、森林の香りの成分と考えればわかりやすいと思います。フィトンチッドには殺菌力や微生物の活動を抑制する作用があることが知られていますが、それだけでなく、精神的な癒しの効果があることもわかっています。公園などの木も、野生状態では森林を形成し、揮発成分であるフィトンチッドを放出していますから、都市に植栽されている樹木も、森林の樹木と同様に、癒しの効果があるはずだと考え、以下のような実験を試みました。

実験方法

大きさや形は同じ部屋を2つ用意し、1つの部屋には公園の樹木から抽出したクスノキの精油を揮発させて室内に充満させ、もう片方の部屋は揮発成分無しとしました。それぞれの部屋で被験者にはストレス負荷をかけるため10分間の計算作業(クレペリンテスト)をしてもらいました。ストレスを測る指標として、唾液中のコルチゾール濃度を用い、測定用の唾液は作業の前と作業終了直後、15分後に採取しました。唾液コルチゾールはストレスホルモンであり、この濃度が高いと、ストレスが高いといえます。
実験に用いたクスノキは、都市公園や街路樹などに多く植栽されている常緑広葉樹であり、その精油の主成分は、カンファー(樟脳)であり、古くは衣服の防虫剤に用いられていましたが、リフレッシュ効果の他に鎮痛・消炎作用があることでも知られています。

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実験結果

ストレス負荷直後は、クスノキの揮発成分がある部屋ではコルチゾール濃度の変化率は平均で約28%、揮発成分が無い部屋では平均で約60%でした(下図参照)。クレペリンテストによりストレス負荷がかけられたため、揮発成分の有無にかかわらず、どちらも唾液コルチゾールの濃度は上がっていました。しかし、クスノキの揮発成分がある部屋は、無い部屋に比べ、明らかに唾液コルチゾールの濃度率が低く、ストレスが緩和されていることがわかります。この傾向はストレス負荷後15分経過しても同様で、わずかな差ですがクスノキの揮発成分がある方が変化率が低くなっています。これらの結果から、クスノキの揮発成分によってストレスが軽減されたと考えられます。
このように、森林のクスノキでなくても、公園のクスノキでもフィトンチッドの効果は変わらず、ストレスを軽減する効果があるのです。

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公園の緑をもっと活用しよう!

実験結果から、わざわざ遠くの森林に行かなくても、近くにある公園の樹木でも森林浴と同様の効果が得られることがわかりました。森林浴ならぬ「公園浴」です。たまの休日には自然豊富な森林に行き、心身共にリフレッシュすることも良いですが、毎日の暮らしの中で、身近な公園を利用するのも実は十分効果的なのです。「公園でゆっくり過ごす時間なんて無いよ」という時間的な余裕が無い方も、あきらめる必要はありません。これまでの研究ではほんの5分間の休憩でもストレスが軽減することがわかっています。通勤や通学、買い物などの際にちょっと遠回りをして、公園の中を歩くだけでも効果がありますよ。

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参考文献
岩崎寛,山本聡,渡邊幹夫(2004)都市緑化樹木の揮発成分によるストレス緩和作用-クスノキを用いた実験,AROMA RESEARCH5 (4),386-390.

監修 岩崎 寛(いわさき ゆたか)

京都市生まれ。京都府立大学農学部を卒業後、岡山大学大学院において博士号取得。
姫路工業大学、兵庫県立淡路景観園芸学校教員を経て2005年より千葉大学園芸学部に勤務。
現在、園芸学研究科環境健康学領域長。
2012年より千葉大学看護学研究科災害看護学GL養成PGの教員も兼務。専門は緑地福祉学、環境健康学。

園芸療法や公園セラピーなど「緑の療法的効果」に関する研究と、それらを実践する場である病院などの「医療福祉機関における緑のあり方」など、人と植物とのより良い関係について、緑地や植物からの視点だけでなく、医学、薬学、看護学など学際的な視点から研究を進めている。専門認定登録園芸療法士(日本園芸療法学会)、気候療法士(ドイツ)などの資格を持ち、日本ガーデンセラピー協会顧問、日本園芸療法学会理事、日本緑化工学会理事などをつとめている。

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