10月-2.長い葉っぱの仲間たち
梅雨が明け、強烈な暑さの夏がやってきました。小鉢に植えた植物には1日3回の水やりが必要だったりと、高温に辟易しながらも、真夏を堪能したものです。
それもつかの間。台風が去ったら途端にカーディガンが必要になりました。あんなに賑やかだったセミたちも、秋の彼岸のころにはもう一声も聞こえません。その寂しさと裏腹に、秋の訪れを噛み締めるために久しぶりの「みちくさ」へ。
魔除けの葉っぱ
10/1は中秋の名月の月見でした。みなさんは月見を楽しまれましたか。
さて中秋の月見の際に飾る植物はススキですが、なぜススキを飾るかご存じでしょうか。
なんでもススキの中空の茎の中に神様が宿るとか、鋭利な葉が魔除けになるとかいわれることからだそうです。
そういえば先日、不意に触れたパンパスグラスの葉で、腕の内側をスーッと長く切ってしまいました。
「これはひょっとして、私が悪魔で魔除けされちゃったってことかな?」なんて思いながら、ヒリヒリと赤い線をなす切り傷に目をやったのでした。
パンパスグラスとススキは別種の植物ですが、同様に硬く肉薄の線状の葉を持ちます。改めてこのタイプの葉の鋭さを思い知るとともに、魔除け、もとい敷地の境界に植栽すれば、不法侵入を防ぐ役割もあったのかもしれないなと感じました。反面、子どもの遊ぶ庭に植栽する際は、十分注意が必要でしょう。
ススキだけではなく、長い葉っぱの仲間たちは、シーンに多様性を添える効果があります。葉形の違いによるバラエティだけではなく、線という形状がもつ流れや動きは、圧倒的な景色の面白みと深みの要素となります。道々、長い葉っぱが効果的に見せてくれるスポットを探しては、葉形と葉色の組み合わせの妙に唸り、どんな小さな区画であっても植栽者の意図を汲み取れば、その手腕に感心する。そんなふうに「みちくさ」がはかどります。
長い葉っぱで秋を楽しむ
ところで、長い葉っぱの仲間たちは、なぜこんなにも目に留まるのでしょうか。それはやはり、風をはらんでなびくさまが印象的だからではないでしょうか。私の原風景のひとつにもそんな景色があります。
幼少時を過ごした地域は台地の上で水に乏しく、宅地開発の進むなか小規模だったとはいえ、麦や陸稲の畑がありました。初夏は麦、秋は陸稲が風と戯れていた景色は、今も懐かしく思い出されます。
もう一つは、放置された造成地に生えたイネ科雑草が、葉擦れの音とともに風向きを教えてくれる夏休みの風景。長い葉っぱの仲間は、記憶のなかにすっかり居座っているのです。
さてこの時期に園芸店に足を運べば、なおさらグラス類が気になります。ススキやカリヤス、パニカムなどの大型種を植えるほどのスペースがなかったとしても、小型のグラス類を見つくろって、ちょっと寄せ植えに加えてみたくなります。カヤツリグサ科のカレックス、イネ科のペニセタムなど、多彩な園芸品種が流通する種類は、葉色も選べて使い勝手もよくおすすめです。
また、ペニセタムやフェザーグラスなど穂が美しい種類は、線形葉のクールな印象とは違う温もりが魅力的で、すぐさまやってくるだろうウールニットの季節を彷彿させます。
ご存じの通り秋は短いもの。忙しなく園芸作業に追われつつも、濃厚な秋の楽しみとして、長い葉っぱとの遊び方を深めてみたいと思います。
- コラム|ウチダ トモコ
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園芸ライター、グリーンアドバイザー、江戸東京野菜コンシェルジュ。
園芸雑誌、ライフスタイル誌などの編集、ライターを経て、現在は主にウェブで提案および取材執筆活動中。