9月-1.サルビア
夏の終わりから秋の始まりを知らせてくれたのは、地元の氏神さまで執り行われる秋祭りをお知らせするポスターでした。外出のおりに様々な町へと出かけ、道端の掲示板に目をやれば、閑静な住宅地からビルだらけの都心部でも、秋祭りの文字。
そうか、もうそんな季節。夏も終わりか。
気づけば夜間の気温の高さが少し和らいで、バラは葉脇から新芽をのぞかせていました。夏から秋への移ろいを日ざしと風に感じながら、いざ、今日もみちくさへ出かけましょうか。
花壇やコンテナのサルビア
サルビア (Salvia)
は、中南アメリカ、ヨーロッパなどを中心とした世界の温帯~亜熱帯に分布するシソ科の植物です。その種類たるやなんと約900種。大きなファミリーをもつだけあって、姿形も性質も非常に多様です。
ところでみなさまがサルビアと聞いて思い出すのは、どんな花ですか? 私がまず思い浮かべるのは、やっぱりサルビア・スプレンデンス(Salvia splendens)
。緋衣草(ひごろもそう)という美しい名をもつ、花壇でおなじみの赤い花です。初夏に始まり、関東地方では秋まで咲き続けるので重宝します。赤い花と書きましたが、基本の赤を筆頭に、ピンクや白、紫色と揃うので、それなりに彩りのバリエーションを楽しめます。
そこで、みちくさの際に公園の植栽などをちらちら見てみましたが、残念ながら、近隣ではあまり本種を見つけることができませんでした。かつては、面の配色で見せる毛氈(もうせん)花壇に、サルビア・スプレンデンスは必ずといってよいほど植えられていたのに、近年はこうしたスタイルの花壇が減ったせいか、また、もっと暑さに強い植物が利用されるようになったのか、いつの間にか主役の座からは姿を消していました。
その代わり、コンテナガーデンにアクセント的に利用されたりするのを見かけました。そうしたケースには、花冠と萼(ガク)の色が違う複色だったり、ちょっと個性的な品種が用いられるようです。
サルビア・スプレンデンスは、晩秋には枯れてしまう一年草です。ほかのサルビアの仲間では、スプレンデンスより花冠の幅が広いサルビア・コクシネア(Salvia
coccinea)、青紫や白の落ち着いた佇まいのブルーサルビアことサルビア・ファリナセア(Salvia farinacea)
が一年草タイプ。いずれもガーデニングブーム以降、おなじみの花苗として用いられてきたお陰でたくさんの品種が生まれています。花色はもとより、強健さ、育てやすさも改良されてきました。
秋はサルビアシーズン
サルビア・スプレンデンスやサルビア・コクシネアなどと同様、花壇でおなじみなサルビアが、チェリーセージことサルビア・ミクロフィラ(Salvia microphylla)
です。可憐な姿が好まれて、数え切れないほど品種がふえました。
また、古くからハーブとして用いられてきたコモンセージ(Salvia officinalis) も、コモンの名前の通り、サルビアの仲間の主役的存在です。
ところで、なぜこのように、サルビア属の仲間には○○セージと呼ばれるものがあるのでしょうか。
サルビアはラテン語の学名をそのままカタカナ読みにしたものですが、このラテン語が、フランスでセージ (sauge)
と転じたことに由来しています。コモンセージをセージと呼ぶところに始まり、世界に分布する同じ仲間に、セージの呼び名がつけられていきました。
ただし、なかにはエルサレムセージ(Phlomis fruticosa) 、ロシアンセージ(Perovskia atriplicifolia)
のように、同じシソ科ではあるものの、サルビア属ではない植物にもセージと呼ばれるものがあります。それほどにセージという呼び名は、ポピュラーで親しみやすかったのでしょう。
さて、秋からは、同じくハーブとして扱われる葉に芳香があるパイナップルセージ (Salvia elegans) 、赤紫色のビロードのような手触りの花を咲かせる大型のメキシカンブッシュセージ (Salvia
leucantha)
、ボール状の蕾がユニークで愛らしいローズリーフセージ (Salvia involcrata)
といった、個性的なサルビアの種類が開花期を迎えます。自宅のガーデンはもちろんのこと、各地にはサルビアの名所ガーデンがあります。シックな花色と、大型のサルビアの仲間らしい優雅でダイナミックな株姿を探しに、秋の小旅行や散歩のおりにも、ぜひお出かけください。
- コラム|ウチダ トモコ
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園芸ライター、グリーンアドバイザー、江戸東京野菜コンシェルジュ。
園芸雑誌、ライフスタイル誌などの編集、ライターを経て、現在は主にウェブで提案および取材執筆活動中。