風景撮影の基本は「風景を切り取る」ことですが、ここでは写す範囲をずらすだけではなく、自分の視点を大きく変えることで新しい空間を作り出す絵作りをご紹介します。
草花は正面からきちんと撮るのが基本ですが、時には自分が移動して視点を変えることで、予想外の美しい表情を発見することもあります。
とくに、ちょうどこれからの新緑は花をいっそう美しく見せてくれます。周囲の鮮やかな緑色を画面にうまく取り入れるように工夫しましょう。
ガマズミを正面から清楚に
エゴノキやヤマボウシなど初夏の野山には清楚な白い花が多く見られます。写真のガマズミもそのひとつですが、プリーツのある葉も魅力のひとつ。白い花は、普通に撮ると花の質感を損なわないように露出は暗めとなり、背景も落ち着いた雰囲気になります。
視点を変えて新しい景色を
上の写真と同じガマズミですが、左下から見上げる視点に変えると背景は日光に輝く他の木々の新緑になりました。背景が明るいと露出を明るくしても花の質感は損なわれません。花だけでなく周囲の様子や空気感も画面に入れるようにすると、同じ花でもまったく違う印象の写真になります。
光や風など形として目には見えなくても、その場の雰囲気を作り出している要素はたくさんあります。それらが作り出している空間を見つけることで、写真にいっそうの絵ごころが加わります。自分がいろいろ動いて、身近に隠れているいろいろな空間を画面に取り入れてみましょう。
目に見えない空気が作り上げる空間
薫風に揺れる木を見上げる視点で画面に空気感を出しています。背景の流れる白い雲がちょうどよい位置になるように自分が移動して絵を構成しています。
草花に合った視点で
子供を撮る時にしゃがんで姿勢を低くするように、草花も上から花を撮るだけではなく低い視点からの絵作りをしてみましょう。ミヤコワスレのように草丈のある植物は、横からその草姿全体を写すことで可憐な印象になり、画面に奥行きも生まれます。
花を美しく見せる緑で演出
バラの花を美しく見せているのは美しい緑の葉ですね。花だけをアップで撮るだけではなく、少しさがって風景的な視点で写してみましょう。その際、美しい新緑は具体的に葉を写さなくても、手前にボカして存在を意識させるだけで、秘密の花園のような空間を演出してくれます。
野山でなければ出会えない光景を見つけよう
田植えが終わったばかりの田んぼに、新緑と紫の藤の花が映り込んでいる山村の風景です。野山や自然のフィールドには、現場でなければ見つけられない予想外の発見があふれています。花ごとに撮り方を決めてしまわずに、自分が動くことでいろいろな花風景に出会いましょう。
自然の野山の新緑も美しいのですが、 人の生活と密着した里山は木々のバリエーションに溢れ、多彩な緑の重なりを見せてくれます。何本かの街道で結ばれている三重と奈良に挟まれた紀伊半島内陸部には、古くからの人里が点在していて、まだ少しかつての新緑の姿が残っている地域のひとつです。
街道沿いの集落でよく見られる柿畑の新緑。他に、梅、桃、栗やクヌギ、茶畑など生活木の新緑も美しい。
写真家。自然の中の風景写真を様々な媒体に提供するほか、園芸雑誌でも撮影を担当している。