今回の隠し味は、光と水です。
梅雨空が続く時期に水はつきものですが、日中の陰影もはっきりしてきて、いろいろドラマチックな写真が撮れる季節です。
花に残った雨露や葉に透ける日光などは、それがあるだけで普段は気がつかない植物たちの美しさを見せてくれます。日光と水分は、虫や小動物以上に、植物たちに欠かせないものです。それだけに、ただ平坦に撮った写真よりも植物が生き生きとして見えるのかもしれません。
雨上がりのキンシバイ
キンシバイ(金糸梅)は、梅雨時の庭に明るい雰囲気を添えてくれます。地上の太陽のような花をそのまま撮ってもきれいですが、雨露にぬれた姿もまた風情があります。花だけでなく、露のついた葉を画面に入れることで、しっとりと佇む周囲の気配も伝えることができます。
光に輝くキンシバイ
雨がすっかり上がると、陽が射してキンシバイの葉がきらきらと輝きだしました。その中で、花もうれしそうに花びらを広げているようです。カメラのレンズを通すと背景がほどよくボケて、たくさんの光の集まりに見えます。そのような光だけを背景にすると、キンシバイ本来の明るい花色がさらに引き立ちます。
光と水は、それぞれ光と水そのものが直接草花を際立たせたり、背景などで間接的に貢献したりと、その効果にはいろいろなパターンがあります。以下、この時期見ることのできる草花での例ですが、あまり華やかではない地味な素材ほど、隠し味の効果で本来の魅力がより引き出されます。
植物自体を輝かせる光
逆光や木漏れ日の中では、花も透けるように輝いて見えます。写真は木漏れ日に輝くトクサですが、まるで自分で発光しているかのようです。このように、普段はあまり気にとめないような地味な植物でも、光の演出でハッとするような美しい一面を見せてくれることもあります。
背景の光を利用する
暗がりで咲いたミヤマオダマキです。後ろには弱い日光が入っていますが、垣根ごしの光や緑の葉を通してきた光など、色もさまざまです。背景をボカすことによって丸く見えるそれらの光を、さらに画面の中で効果的に見えるように配置します。ここでは、細い草姿が際立つような位置にカメラを構えました。
水滴そのものを主役に
梅雨時の植物たちは、葉の表面にさまざまな雨対策がなされています。写真は、まだ花が咲く前のマツカゼソウですが、撥水性のある葉の上にいくつも雨露が残っていました。花が咲いていないと、あまり気にとめない植物でも、水玉がたくさん付いているだけで別の植物のように見えることもあります。
水に写る表情を生かす
雨露や水滴だけでなく、植物や景色を反射させて面白い光景を見せてくれるのも水の仕事です。とくに、この時期は水辺の植物たちも花盛りです。水に映る姿のほうをメインに画面を構成することで、かえって植物本体の存在を意識させる効果があります。
ハナショウブは、アジサイと並んで梅雨時の代表的な花です。花のアップだけでなく、パッチワークのような花色の集合として、また池や田んぼなどを背景にひとつの風景として、幅広い撮り方ができるのが魅力です。今回のテーマ、光と水を生かすことで、多彩な花がさらに引き立ちます。
ハナショウブは梅雨空のイメージですが、独特の花色は明るい日光の下でまた別の表情を見せてくれます。ちょうどやってきた蜂の身体が透けて、花色の一部になったようです。水面に反射する光と緑を背景にして、梅雨の晴れ間の爽やかな空気感を出しました。
かつては田んぼの脇に植えられたハナショウブをよく見かけました。菖蒲園とはひと味違う季節感のある趣です。このような光景は少なくなりましたが、次回のテーマ「風景と空気感」も花を引き立てる要素です。画面の中での花の位置やバランスを整えることがポイントです。
写真家。自然の中の風景写真を様々な媒体に提供するほか、園芸雑誌でも撮影を担当している。