今回の写真を引き立てる隠し味は、虫と小動物です。
草花と、虫や鳥などの小動物は本来ワンセットです。なぜなら、花はほとんど彼らを招くために咲いているのですから。害虫がたくさんいるのは困りますが、小動物たちが生き生きと飛び回る庭や風景は健康な証拠です。
といっても、あまりクローズアップしてしまうと、昆虫写真や野鳥写真になってしまいます。彼らの様々な表情を写すのももちろんおもしろいですが、ここでは主役はあくまでも草花ということにして、虫や小動物が画面に入ることで写真がさらに引き立つ構図や撮影効果をご紹介します。
最初はまずそのまま記録
雨上がりの朝、ポピーの花の中でアブが雨宿りしていました。花を撮っていると、中にすでに虫がいたり、飛んでくることはよくありますね。
虫の動きは速いので、見つけたらまずは花と一緒に写しておきましょう。ただ、このままでは細部はよくわかりますが、写真としてはそれだけの状況にすぎません。
余裕があれば草姿を生かす構図で
アブがあまり動かないようなので、少し引いて周囲の状況も画面に入れました。くねくねしたか細い草姿全体を写すことで、雨からめしべやおしべを守るポピーいう花の有り様がわかるとともに、アブも画面のいいアクセントになっています。花と虫のどちらかだけ写してもそれだけの写真ですが、お互いに引き立て合う効果的なアングルを素早く見つけることがポイントです。
虫や小動物はその特徴を効果的に生かせば、草花をさらに際立たせてくれます。以下は、花だけでは絵にならないものの、小動物が入ることで絵本のワンシーンのような写真になる例ですが、そのポイントは、「動き」、「レンズ」、「構図」、「色」です。
虫たちの動きを生かす
花に止まっている蜂や蝶の写真だけでなく、次の実践として彼らの動きを生かしてさらにいろいろなシーンに挑戦してみましょう。ここでは、手前から奥のシロツメクサに向かって飛んでゆくミツバチを撮ることで、絵本の 1ページのような花畑の雰囲気にしてみました。
レンズの特性を生かす
蜂や蝶などのクローズアップには主にマクロ撮影が向いていますが、周囲の状況もなるべく広く画面に入れたい場合は、できるだけ広角(一眼レフは広角レンズ)で撮影します。カメラによって差はありますが、広角側にするとある程度写したいものに近づけるので、その特性を生かして広い範囲を写すことができます。
物語を演出する
小動物たちは、花だけの写真では表現できない、メルヘンのような物語を演出してくれることもあります。ここでは、画面の対角線を生かして、夏の昼下がりにカエルがナスの花を見ているような情景にしてみました。カエルはあまり動かないので、その表情を生かしたいろいろな構図がねらえますね。花とカエルのピントにも気をつけます。
小動物の色を点景に
虫や小動物は、その存在だけでなく身体の色が画面のアクセントになることもあります。たとえば、ラベンダー畑のモンキチョウや白ユリとクロアゲハなどは、モノトーンの花を引き立たせるプラスアルファです。ここでは、咲き終わりのアジサイと背景とのパステル調の画面に赤トンボの赤色がアクセントになり、いい点景となってくれました。
バラは、みなさんが一番撮影する花のひとつではないでしょうか。花をしっかりと撮ることは基本ですが、ここでも花だけでなくそのいろいろな表情を写してみましょう。今回の虫や小動物、そして光と水が、バラの生き生きとした表情を絵にする効果的な隠し味になります。
バラという花は、花が大きいので一つの花を画面に入れるだけでも、いろいろな写し方ができる花です。ここでは、今回のテーマ、虫をアクセントにしましたが、その位置、ピントの合わせ方、絞りの違いで写真の印象がまったく違うものになります。
一本のバラの写真も背景で印象がまったく変わります。ここでは、他の色とりどりのバラを背景にボカして、一枚の写真としてキラキラ感のある印象にしました。隠し味のひとつ、光です。昼間だけでなく朝夕の光もぜひ生かしたいものです。
写真家。自然の中の風景写真を様々な媒体に提供するほか、園芸雑誌でも撮影を担当している。