「発見」とは、きれいな花を見つけることではありません。彼らが密かに見せている「ドラマ」を見つけることです。庭や自然の中でハッと目に留まった光景には、そうさせた理由があります。それは、花だけとは限りません。
植物が美しいのは、そこにいろいろな生のドラマがあるからです。姿形のおもしろさとその理由の発見から、それぞれのドラマを知ると、写真を撮る視点も新しく変わってきます。
みなさん自身の「センス・オブ・ワンダー」こそ、写真の一番の隠し味。まずは、「花」から離れて、みなさんならではの発見をそのまま写してみましょう。そうすれば、きっと植物とみなさんの距離がいっそう縮まることでしょう。
バイモのくるくる
春の庭を華やかな雰囲気にしてくれるバイモは、スラッとした草姿とくるくる巻いた葉先がとてもおしゃれです。写真でそのくるくるを見せるには、まず背景はすっきりボカすこと。さらに、花はバイモとわかる程度に画面から少し切るくらいにして葉先の方を強調するのも効果的です。
くるくるの理由
か細い姿のバイモは、生長するにつれて何かにつかまろうとします。くるくるした葉先はそのためです。庭では何株か手を取り合うように互いの葉に巻きつき、寄り添っている光景をよく目にしますが、残念ながらこちらは独りぼっち。ようやく近くにあった枝につかまることができてホッとした様子です。植物それぞれ特徴ある外見にも、理由があるとわかると、またさらに愛着が湧いてきます。
春は草花がいっせいに再生する季節。そこには、たくさんの発見とドラマがあります。以下は、私が出会ったいくつかの光景ですが、写真のお手本ではありません。どんなシーンでも撮影対象になる例として、あえて花以外の光景を選びました。みなさんもぜひおもしろい発見をして写真に収めてください。
ムスカリの芽出し
雨上がりの朝、ムスカリが花をくるんで守るように次々と芽を出していました。マクロの世界ではいろいろな発見がありますが、そこだけを写すのではなく、周囲の状況(ここでは他のムスカリ)がなんとなくわかる程度に画面へ入れることで、狭い範囲でも広がりが感じられる写真になります。
ハマナスの芽吹き
バラなどの新芽の鮮やかな緑は、まさに再生の色です。このようにシンプルな題材では、背景をボカすだけでなく、その中の色や光を効果的に配して、見せたいポイントを部分的に引き立たせるのも効果的な手法です。
飛び出てきたようなヤブレガサ
桜の花が散った地面から顔を出すヤブレガサ。春の主役交代のドラマは人間と同じ時間では進みません。早送りをすると、きっと土の中から次々に飛び出して、その名の通り傘を開いているように見えることでしょう。
ソメイヨシノの花火
満開になると鞠(まり)状に花が咲くソメイヨシノ。花びらが散ってしまった後は、花火のように花柄がそのまま残りました。ひとつの花芽から花がいくつ咲くかによって、花火の形も違うのですが、よく世話をされている樹ほどたくさん花をつけるそうです。
青空に映える桜もいいですが、朝や夕方、また雨の日にはいっそう妖艶な雰囲気を漂わせます。また、テーマのとおり、桜の写真も満開の時期がすべてではありません。花吹雪はもちろん、散った花びらや葉桜など、花が終わってからもたくさんのドラマがあります。撮影を通して「自分の桜」を見つけましょう。
「散り模様」
水面に浮かぶ花びらはなんともいえない風情です。三脚を立てスローシャッターで流れる花びらの軌跡を写し込むのもよいでしょう。散り元の枝を画面に入れると桜であることがよりわかります。ここでは、水面に映る枝を画面に入れましたが、印象画のような雰囲気になりました。
「春山煙る」
あいにくの雨模様でしたが、山々に霧が立ち昇る幽玄な景観となりました。風景写真では、桜も時に、春景色のなかのよい脇役になります。ここでは、垣間見える山肌の木立とのバランスをとりましたが、全体的に日本画のような雰囲気になりました。
写真家。自然の中の風景写真を様々な媒体に提供するほか、園芸雑誌でも撮影を担当している。