花そのものを撮るときの撮影テクニックです。
よく「風情のある写真」といいますが、花の写真の雰囲気の違いは、じつは写真に写り込んでいる花以外の要素にあります。たとえば、葉であったり蝶や蜂、水露、さらにはバックとなる空間など。
でも、ただ葉や露を一緒に写せば風情があるということではありません。下に2つほど例をあげてみました。植物の花の色や葉の形には、それぞれが、その色や形、姿である理由があります。花の風情を撮るということは、生き物としての植物の営みを感じること。それこそ切り花を撮るときとは違うガーデナーの目線ですね。
花のアップだけではなく、みなさんがお庭で見つけた感動を、まずはそのまま素直に写してみましょう。
基本姿勢は「生き物として花を撮る」こと
最近人気のクリスマスローズです。花はいろいろバリエーションがあるとはいえ、一年を通じると庭での大半の姿は大きな葉が茂るばかり。花が咲いて、いよいよ写真を撮ろうと思っても、大きな葉が邪魔になって花をしゃくりあげなくてはなりません。
でも、よく見ると、夏の間、花芽を強い日差しから守っていた葉は、いよいよ花が咲く頃になると雪や霜から花を守るように覆い、咲くのを見とどけるように枯れていくのがわかります。花がうつむいている姿も、また風情があります。
園芸品種であっても、原種から受け継いだ自然の営みは変わりません。
まもなくの撮影シーズンが楽しみなバラ(ジャルダン・ド・バガテーユ)です。こちらも花は必ずしも写しやすい場所にあるわけではなく、このように葉の陰に隠れるように咲いていることもあります。でも雨の日には大切な花は、葉で雨露から守られているのがわかります。だから、葉をよけることはぜずに、あえてそのままの情景を写してみました。
ツバキも同じ理由で、室内に生けるときにも葉をとらずに生けて、花のこころを感じますね。
植物の撮影は、むしろ雨の日や早朝に行った方が、植物たちも生き生きとしていて、風情のある写真が撮れることが多くあるのです。
基本テクニック
見たままに撮るとはいえ、雰囲気をきちんと伝えるにはやはりいくつか基本的なテクニックがあります。ほんの少しですが、以下でご紹介します。
1. 直射日光を遮る
晴天の日は、写真全体が明るい雰囲気になりますが、花自体はコントラストが強過ぎて、あまり雰囲気がでません。ヒマワリなど強い日差しがぴったりの花もありますが、一般的には、手や白い傘などをかざして、直射日光を遮ってやると、柔らかい印象の写真になります。花が暗くなるときはカメラの明るさ設定(露出)を明るめに補正して写します。
'アルペンパール'というダリアです。直射日光があたるとシャープな雰囲気になりますが、花の質感はよくわかりません。
同じアングルで手をかざし、日光を遮って撮ると、花全体が柔らかく優しい雰囲気になりました。
2. 花の位置を考える
いわゆる構図ですが、花や植物全体を写真の中心に配置するのではなく、花が向いている方向、植物が育っていく方向を広くとってやると、生き物としての動きを感じられる写真になります。
'神楽獅子(かぐらしし)'というツバキです。花が画面のやや上にあると、チューリップのような感じです。
同じツバキですが、花が向いている上部に空間を取ると、陽光を浴びる樹木の花の雰囲気が感じられます。
3. 花以外の位置も整える
蝶やハチなどの昆虫たちも、植物とともに庭の主人公であり、風情を出す重要な要素です。そんなシーンを発見したら、発見のうれしさをぐっと抑えて、花と同じように昆虫の向きをよく見て、1枚の絵の中の1要素として構図を整えましょう。
蝶だけを中心に配すると、なんだか窮屈です。
蝶が次に向かうであろう隣の花も入れることで、庭全体の広がりも感じられるようになります。
写真家。自然の中の風景写真を様々な媒体に提供するほか、園芸雑誌でも撮影を担当している。