6月-3.キュウリの現在・過去・未来

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消えゆく春キュウリ

 おなじみの「夏野菜」キュウリには春に旬を迎えるものがあるのをご存知ですか?
 私たちがふだん青果店やスーパーで入手したり、家庭菜園に植えつけたりしているキュウリは、明治以降に中国より導入された華北系と呼ばれる系統で、低温に弱く、暑くなってから果実をつける性質があります。そのため、気温が安定する5月の大型連休ごろに植えつけて、夏にかけて収穫するのが基本です。果皮が薄く柔らかく苦みが少ないため、食事の洋風化とともに広まったサラダに最適で、急速に浸透していきました。イボが白いために白イボ系とも呼ばれ、見栄えもよいことから現在の主流になっています。
 これに対するのが、日本へは6世紀ごろに渡来したとされる華南系の系統で、イボが黒いので黒イボ系とも呼ばれています。華南系キュウリは長日と高温で雌花がつきにくくなる弱点がありました。そのため、夏前に収穫を終える、春が旬のキュウリで、華北系が台頭する前までは、盛んに栽培されていました。果皮は厚いものの果肉はシャキシャキとして独特のほろ苦さがあり、昔ながらの食べ方である漬物などに向いています。

 しかし、現在の営利栽培でキュウリは周年ハウス栽培されているので、春ごろに出荷される華北系(白イボ系)キュウリを、春キュウリと呼ぶこともふえました。なんだか少しさびしいですね。
 なお、現在でもごく限られた地域でわずかに栽培がされている華南系キュウリには、広島県の「青大きゅうり」、神奈川県の「相模半白」、埼玉の「落合節成」、石川県の「加賀節成」などがあり、それぞれ地域の伝統野菜とされています。

見栄えと引き替えに失ったもの

 穴のない容器に植えつけるときに根腐れをふせぐために鉢底へ敷いたり、発泡煉石(れんせき)をつかう水耕栽培のときに水の傷みを防ぐなど、広く利用されているケイ酸塩白土。園芸好きな方々なら、なじみがある資材でしょう。この成分であるケイ酸とキュウリには、切っても切れない縁があります。
 キュウリという野菜は根から土中のケイ酸を吸収し、それを白い粉状にして果実を覆うことで、鋭いイボとともに病害虫から我が身を守る術としていました。その粉状の物質をブルームといいます。ところがそのブルームが農薬と誤解されることがありました。そこで開発されたのが、ケイ酸をあまり吸収しない台木です。昭和60年代のことです。その台木に接ぎ木したキュウリはブルームを形成せず、ツルッと緑色が美しい果皮を持っていました。見栄えがよいため市場での人気が高まり、それと反比例するように白いブルームをまとったキュウリは、ごく一部でつくられるだけとなり、スーパーなどには並ばなくなりました。

 しかし、我が身を守る鎧だったブルームを失ったキュウリは、さまざまな病気に侵されやすくなったといいます。それでも2000年代に入ってから、ケイ酸を吸収しない台木に接がなくてもブルームがつかない品種が開発されました。ブルームつきのキュウリは、ますます過去のものになりつつあります。
 また、食害から身を守っていた鋭いイボは扱いにくいだけではなく、細菌が滞りやすいとされ、生食が主流となったキュウリの食べ方においては、食中毒発生が懸念されていました。その不安を取り除くための品種改良が行われた結果、現在のキュウリは鋭いイボをも失いました。このようにキュウリは、食味や強健さだけではなく、私たちのさまざまな要求に応えるべく品種改良が進み、本来とは少々違う姿となって、食卓に並んでいるのです。今後、キュウリを食べるときは、そんな歴史に少しだけ思いをはせてみてください。

コラム|ウチダ トモコ
園芸ライター、グリーンアドバイザー、江戸東京野菜コンシェルジュ。
園芸雑誌、ライフスタイル誌などの編集、ライターを経て、現在は主にウェブで提案および取材執筆活動中。

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